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大阪高等裁判所 平成7年(う)845号 判決 1996年3月15日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤結晶粉末一袋(当庁平成七年押第二四七号の1)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官梶山雅信作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人長谷川俊作作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、原判決は、本件公訴事実と同一の事実を認定しながら、検察官の懲役一年六月の求刑に対し、被告人を懲役一年、執行猶予一年に処したが、右原判決の量刑は、刑の執行猶予期間を一年という極めて短い期間にしたこと及び被告人を保護観察に付さなかった点において、著しく軽きに失する、というのである。

所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討し、次のとおり判断する。

本件は、覚せい剤の自己使用及び覚せい剤約一・六五三グラムの所持の事犯である。被告人は、水商売に従事していた当時男性客に勧められたのがきっかけで、本件の約三か月前の平成七年三月頃から覚せい剤の使用を始めたものであるが、本件使用量は約〇・〇五グラムと少なくなく、又覚せい剤の使用に伴い稀ではあるが若干の幻覚、幻聴様のものが発現することもあったこと、本件所持にかかる覚せい剤はその前日頃別の男性から無償で貰った覚せい剤の残りで、少なくない数量である。他方、被告人にはこれまで前科前歴が皆無であること、本件発覚の経緯は、今の段階で覚せい剤との関係を絶つのでなければ、自分の再起更生は危ういと考えた被告人が、事情を親族に告白すると共に、再出発を決意して自ら警察に出頭した上、本件を含め自己の覚せい剤との係わり合いを全面的に自供したことにあることなど、被告人のため有利な事情が認められる。

右事情に本件犯行の罪質、特に薬物事犯としての特質を併せ考慮すると、本件は被告人を保護観察に付すべき事案とまでは認められないが、原判決が被告人を懲役一年に処しながら、執行猶予の期間を一年間とした点において、軽きに失するものというべきである。論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決が認定した事実に、原判決の挙示する法条を適用(刑訴法一八一条一項但書は当審における訴訟費用についても適用)し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田崎文夫 裁判官 久米喜三郎 裁判官 小倉正三)

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